設計事務所とハウスメーカーの違いとは?一級建築士が設計自由度・性能・コストから比較
■ディスクリプション
設計事務所とハウスメーカーでは、住宅のつくり方そのものに違いがあります。一点ものとして設計する住宅と、規格化された住宅を、設計自由度、品質・性能、コスト、工期、メリット・デメリットから一級建築士が実務経験をもとに比較します。
注文住宅を建てようと考えたとき、まず迷うことのひとつが「どこに設計を依頼するか」ではないでしょうか。
住宅を建てる方法としては、ハウスメーカーや工務店、設計事務所などさまざまな選択肢があります。そのなかでも、設計事務所とハウスメーカーでは、住宅ができるまでの考え方や仕組みに比較的大きな違いがあります。
私たちは普段、住宅をはじめ、店舗、クリニック、オフィスなど、さまざまな建築の設計に携わっています。その立場から両者を比較すると、設計事務所は「その場所や人に合わせて一点ものをつくる」ことに近く、ハウスメーカーは「一定の仕組みのなかで住宅という製品をつくる」ことに近いように感じます。
もちろん、設計事務所にもハウスメーカーにもさまざまな会社があり、すべてを一括りにすることはできません。
そのことを前提としながら、設計自由度、品質・性能、コスト、工期などの観点から、両者の違いについて考えてみたいと思います。
■設計事務所とハウスメーカーでは「家のつくり方」が違う
まず、大まかな違いを整理すると次のようになります。
比較項目 | 設計事務所 | ハウスメーカー |
住宅のつくり方 | 敷地や暮らしに合わせた個別設計 | 商品・仕様・工法を一定程度規格化 |
設計自由度 | 比較的高い | 商品や構法の範囲による |
構造・工法 | 木造・鉄骨造・RC造などから検討可能 | メーカーごとに採用工法が決まっていることが多い |
品質・性能 | 要望に合わせ個別に設定 | 標準仕様として明確化されていることが多い |
コスト | 個別性が高く変動しやすい | 規格化・大量調達による合理化がしやすい |
設計期間 | 比較的長くなりやすい | 標準化により短縮しやすい |
工事期間 | 建物ごとに異なる | 工法によって短縮しやすい |
向いている人 | 土地や暮らしに合わせた家を求める人 | 性能・価格・スピードを明確に比較したい人 |
■設計事務所は、その場所と暮らしから一点ものの住宅を考える
設計事務所で住宅を設計する場合、「一点ものをつくっている」という感覚が比較的強いと思います。
そこには、敷地の形や高低差、周辺の景色、光の入り方、風の流れといった土地の条件があります。
そして、そこで暮らす人の生活があります。
家族構成、日々の過ごし方、趣味、仕事、将来の変化、住宅にかけられる予算など、それぞれの家庭によって条件は異なります。
さらに、建築基準法をはじめとした法的条件や構造、設備、施工方法なども考慮しなければなりません。
設計事務所では、そうした複数の条件を一度整理し、ひとつの計画案としてまとめます。
その計画をもとに施主と打合せを行い、要望を確認しながら修正し、もう一度敷地や条件を読み直し、再び計画する。
そうした往復を何度も繰り返しながら、少しずつ住宅の形を具体化していきます。
当然、その分だけ設計には時間がかかります。
しかし、時間をかけることで、その土地と、その家族の暮らしに対して、より適した住宅へと近づけていくことができます。
設計事務所に依頼する大きなメリットのひとつは、**「そこにしかない、その暮らしにしかない住宅をつくることができる」**という点にあると考えています。
■ハウスメーカーは、規格化によって住宅づくりを合理化している
一方でハウスメーカーの住宅には、多かれ少なかれ「規格化された製品」という側面があります。
自動車を例にすると分かりやすいかもしれません。
自動車は、一台ごとにゼロから設計するのではなく、あらかじめ開発された車体やエンジン、部品を大量に生産することで、高い性能と品質を比較的合理的な価格で提供しています。
ハウスメーカーの住宅にも、これに近い仕組みがあります。
構造、外壁、窓、設備、部材などを一定程度標準化することで、設計や施工を効率化できます。
メーカーによっては独自の設計システムがあり、標準仕様の範囲内であれば、構造や設備の納まりまで含めて効率よく設計を進められる仕組みが整えられています。
工事についても同様です。
工場であらかじめ部材を生産したり、場合によっては部屋単位に近い状態まで製作したユニットを現場で組み立てたりする工法もあります。
現場で一からつくる部分を減らすことで、工期の短縮や施工品質の安定につなげることができます。
規格の範囲内で住宅をつくるのであれば、こうした合理化によるメリットは非常に大きいと言えるでしょう。

■設計自由度の違い
〇敷地・暮らし・法規・予算から住宅を組み立てる設計事務所
設計事務所では、基本的に敷地条件から設計を始めます。
例えば、南側に必ず大きな窓を設けるというような決まった答えがあるわけではありません。
南側に隣家が近接していれば、上部から光を取り込んだ方がよい場合もあります。
逆に北側に美しい景色があれば、北側を大きく開くことも考えられます。
道路からの視線が気になる土地であれば、中庭をつくることで、外からの視線を遮りながら内部に光や風を取り込むこともできます。
つまり、敷地条件そのものが設計の出発点になります。
また、構造や工法についても比較的自由度があります。
設計事務所によって得意とする構造は異なりますが、弊社の場合は木造だけでなく、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の設計にも対応しています。
住宅以外の用途や異なる構造形式の建築を設計した経験は、住宅を考える際にもひとつの引き出しになります。
最初から特定の工法に建築を合わせるのではなく、その土地と計画に適した構造や方法を検討できる点は、設計事務所に依頼するメリットのひとつです。
〇規格の範囲で効率よく設計するハウスメーカー
ハウスメーカーの場合は、メーカーごとに構法や標準仕様が設定されています。
その範囲のなかでプランや仕上げ、設備などを選択し、住宅をつくっていくことが基本になります。
規格化されているからこそ、短期間で設計をまとめることができ、コストや性能も把握しやすくなります。
一方で、そのメーカーの構法や商品体系から大きく外れる計画については、対応が難しかったり、追加費用が必要になったりする場合があります。
ここは単純に「自由度が高い方が優れている」という話ではありません。
自由度が高いということは、それだけ検討することが増えるということでもあります。
どこまで自分たちの暮らしや土地に合わせて住宅をつくりたいのかによって、必要な自由度は変わってきます。

■品質・性能の違い
住宅を考えるうえで、断熱性能や耐震性能などの建物性能は非常に重要です。
ハウスメーカーでは、住宅を商品として標準化しているため、断熱性能や耐震性能などについて明確な基準を設定しているケースが多くあります。
性能値を比較しながら住宅を選びたい場合、非常に分かりやすい仕組みです。
大量調達や標準化された施工システムによって、一定の性能を比較的合理的なコストで確保しやすいことも、ハウスメーカーの強みと言えるでしょう。
■設計事務所でも求める性能に応じた設計は可能
一方、設計事務所だから性能が低いということではありません。
求める耐震性能や断熱性能を設定し、それに合わせて構造や外皮を設計することは可能です。
例えば構造については、構造計算を行いながら柱や梁の配置を検討することで、一般的な住宅とは異なる空間構成と必要な安全性を両立させることもできます。
断熱性能についても、断熱材や窓の性能を設定し、計算によって住宅全体の性能を確認することができます。
つまり、設計事務所では「既に用意された性能を選ぶ」というよりも、「その住宅に必要な性能を設定して設計する」という考え方になります。
■数値としての性能と、敷地を生かした環境設計
住宅の快適性を考える際には、性能値だけでは捉えきれない部分もあります。
例えば、自然の太陽光や風を利用して快適な環境をつくる「パッシブデザイン」という考え方があります。
冬には太陽光を室内に取り込み、夏には庇などによって強い日射を遮る。
土地の風向きを読みながら窓を配置し、室内に自然な風の流れをつくる。
あるいは、階段や吹抜けを利用して上下方向の空気の流れを生み出すこともできます。
こうした設計は、単純な平面計画だけではなく、建物の断面形状や周辺環境まで含めて考える必要があります。
室内のある場所にふと光が落ちること。
窓を開けると気持ちよく風が抜けていくこと。
庭の木が室内から自然に見えること。
これらはカタログ上の性能値としては表れにくい部分ですが、実際の暮らしの快適さをつくる重要な要素だと考えています。

■コストと工期の違い
コストと工期については、ハウスメーカーの規格化によるメリットが大きく表れる部分です。
部材を大量に調達し、工場で加工し、施工方法まで標準化することで、一棟ごとに異なる建築をつくる場合よりも効率化しやすくなります。
また、標準仕様の範囲内で計画することで、設計期間も短縮できます。
一方で設計事務所では、一棟ごとに図面を作成し、建物に応じて部材や納まりを検討します。
材料の寸法や市販品の規格などを考慮しながらコストを抑える設計は可能ですが、完全に規格化された住宅ほどの生産効率を得ることは難しい場合があります。
ただし、必ずしも「設計事務所=高い」「ハウスメーカー=安い」というわけではありません。
ハウスメーカーにも価格帯の幅がありますし、設計事務所でも予算に合わせて建物の面積や仕様、形状を整理することでコストを調整できます。
重要なのは、単純な坪単価だけで比較するのではなく、どのような住宅を、どのような仕様でつくるのかまで含めて考えることです。

■設計事務所とハウスメーカーのメリット・デメリット
ここまでの内容を整理すると、設計事務所のメリットは、敷地や暮らしに合わせて柔軟に住宅を設計できることです。
一方で、そのためには打合せや設計に時間が必要になります。
ハウスメーカーのメリットは、規格化によって価格、性能、工期などを把握しやすく、効率的に住宅をつくることができることです。
その反面、採用できる構法や仕様については一定の制約があります。
どちらにもメリットとデメリットがあり、一方が常に優れているというものではありません。
住宅に何を求めるかによって、その評価は変わります。
■設計事務所とハウスメーカー、どちらを選ぶ?選び方のポイント
では、実際にはどちらを選べばよいのでしょうか。
一つの考え方として、住宅を「どのように手に入れたいか」を考えてみると分かりやすいと思います。
性能や価格、完成までの期間をできるだけ明確にしたうえで住宅を選びたい場合には、ハウスメーカーの仕組みは非常に合理的です。
既に完成度の高い住宅商品があり、そのなかから自分たちに合ったものを選択できることは、大きな安心にもつながります。
一方で、
「この土地だからできる家をつくりたい」
「自分たちの暮らし方から間取りを考えたい」
「一般的な住宅とは少し違う空間をつくりたい」
「光や風、庭との関係まで含めて考えたい」
という場合には、設計事務所という選択肢が合っているかもしれません。
設計事務所との家づくりでは、最初から完成した答えが用意されているわけではありません。
施主と設計者が対話しながら条件を整理し、その家族と土地に合った答えを少しずつ探していきます。
そのプロセスそのものも、設計事務所との家づくりの特徴だと思います。
■まとめ|「どちらが優れているか」ではなく、求める住宅によって選択は変わる
設計事務所とハウスメーカーの違いを非常に単純化するなら、ハウスメーカーは住宅をある程度「製品」として合理化し、設計事務所は一棟ごとの条件から「一点もの」として住宅をつくる傾向があると言えるかもしれません。
規格化された住宅には、性能、価格、工期、品質管理など、多くのメリットがあります。
一方で、一点ものの住宅には、その土地、その景色、その家族、その暮らしに合わせて建築そのものを考えることができるという魅力があります。
性能とコスト、スピードを重視して合理的に住宅を手に入れたいのであれば、ハウスメーカーは有力な選択肢です。
そうではなく、
「そこにしかない、そこで暮らす人にしかない住宅をつくりたい」
と考えるのであれば、設計事務所に相談してみることも、家づくりのひとつの選択肢になるのではないでしょうか。

■この記事を書いた人
上野 大地 一級建築士/一級建築士事務所UH×住宅をはじめ、クリニック・オフィス・工場・学校など、木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造によるさまざまな建築の設計に携わる。